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書評が『Fuji Sankei Business I 』(2019年1月7日号)に載りました

井戸端

   莫言 作 渡邊晴夫 訳

 

 彼がロバを棗の木につなぐと、ロバの子は乳が飲みたくてぶつかるように跳んできた。母ロバはうるさそうになんどか体を避けてから、ロバの子が飲むままにさせた。彼は木のそばの井戸から桶一杯の清水をくみ上げると、着ているものを脱ぎ、柄杓で水をすくって、頭からかけた。水は冷たく、彼はくしゃみをし、身体を震わせた。母ロバは何か言いたそうにじーっと彼を見た。

その時、黒い顔をした、太った大柄な女が木の桶を提げて井戸端にやってきて、彼の前に立つと、冷やかに言った。

「まったくあんたはひどく涼しそうだね!」

彼はあっと驚き、手に持った柄杓を地面にとり落とし、顔に恥ずかしくてたまらないという表情をうかべた。女は言った。

「去年あんたがしたことを今でも覚えているかい?」

彼は首を振って言った。

「あの時わしは飲み過ぎて、夢を見ているみたいだった。」

女は言った。

「男女のことは、もともと夢みたいなもんだが、あんたは何を弁解するのかね?」

彼は地面からロバの糞をつかみ上げて言った。

「あんたの言うとおりだ。わしは弁解はしない。」

そのまま彼はロバの糞を口に押しこむと、むにゃむにゃと言った。

「わしは弁解はせん。すべてあんたの言うことを聞く。さあ言ってくれ。」

その女は首をふって言った。

「あんたはロバの糞まで食べた。私にこれ以上言うことはない。私は言わないことにした。」

 

原題 「井台」