凌鼎年 作 渡邊明子 訳
まごころ専門店がこの島国に現れる、とたいへんな評判になった。多くの島民が待ち望むなか、開店することになった。
この店を開く前に、まごころ専門店の銭店長はテレビ局、ラジオ局、日刊、夕刊、インターネット、街頭での宣伝ビラ配りといったあらゆる方面での宣伝を通じて、次のようなニュースをほとんどすべての人に知らせた。十二月二十八日の当日に、まごころ専門店の開業時に来たすべての人、男性だろうと女性だろうと、老人だろうと子供だろうと、役人だろうと一般市民だろうと、大金持ちだろうと乞食だろうと、誰にでもまごころ専門店の顧客カードを発行する。その後は顧客カードがあれば、まごころ専門店にまごころを売るときには市価の三割増しになるし、反対にまごころ専門店からまごころを買う者には三十パーセントのサービスがある、つまり三十パーセント安い価格になる、というものである。
現金や実物をくれるわけではないため、この顧客カードを貰いに行こうとする人は決して多くはなかった。しかし、まごころ専門店の目的は果たされたといえよう。店がまだ開かれないうちから、島民皆が知ることになったのだから。一軒の珍しい商店が営業を始めようとしていることを。
まごころ専門店が開業したその日は、それはにぎやかで、政府高官や要人も少なからず行ったらしい。銭店長はむろんとてもまごころがあり、言ったことは実行し、臨席した役人一人一人にまごころ専門店の顧客カードを渡した。店のなかに足を踏み入れる者にはすべて、何者であろうとも、皆にまごころ専門店の顧客カードを一枚贈った。たとえ、それを欲しい者にも、欲しくない者にも。
開業式典が終わった後、まごころ専門店の売場は閑散としてしまった。店内の売場が空っぽだったからだ。この見ることもできない、触ることもできないまごころをどうやって売買するのだろう。店の外は高みの見物をする人だけで、店に入って商談をする者はほとんどいなかった。
このように開店して三日、なんとひとつの取引もなかった。しかし銭店長は別に焦っていないようで、どっかりと釣り場に腰をおろしているかのような様子だ。
四日目の午前になって、ひとりの外国人出稼ぎ労働者がやって来た。仕事を首になり、取り急ぎ金が必要だから、自分のまごころを店に売りたいと言う。銭店長は、いいですよ、でも買い取りですか、それともしばらく抵当に入れますか、と言った。その男は買い取りのほうが抵当に入れるより倍も多い金になると知ると、すぐさま買い取りを選んだ。
銭店長は専門の機械を使って男の体からひと吸いすると、それで取引が成立し、あっさりと金を払った。
なんと、十万元だとさ。一滴の汗も出さず、一滴の血も流さず、ひとかけらの肉も落とさずに、楽々と十万元に換えることができるとは、こんないい売買は今時どこを探せばあるだろうか。一人から十人に、十人から百人に伝わり、開店五日目から、まごころ専門店にまごころを売りにやって来る人はどんどん増え、ついには長蛇の列になった。まごころ専門店が開業したあの日に顧客カードを受け取った浮浪者の何名かは、やはり他の人より三割多く手にいれ、十三万元で売ったのだ。何人もの人が後悔したが間に合わず、皆がまごころ専門店は確かにまごころがあると言った。皆がこの店をますます信用するようになった。
半年もしないうちに、まごころ専門店は島民の三十パーセントのまごころをほぼ買い上げてしまった。
その後、この島国の人はほとんどまごころなしに話すようになり、互いに騙し合い、腹をさぐりあうことが少しも珍しくなくなった。父と息子の間でも、母と娘の間でも、友人の間でも、同級生の間でも、恋人の間でも、上司と部下の間でも、みなまごころと信頼はほとんどなくなって、相手が自分を騙せば自分も相手を騙し、刑事事件になることが途切れず、治安は乱れに乱れた。他の国の人は二度とこの島国の人と付き合おうとも取引をしようともしなくなり、島国の経済状況は急激に悪化した。
島国を救うため、この国の最高機関はいくつかの緊急措置を公布した。例えば、まごころを売ってしまった者はすべて、一様に公職に就いてはならない、すでに公職にある者は、調査確認を経て直ちに免職にする。次に、政府はまごころを買い戻すことを奨励し、まごころを持つ者はすべて、すぐに優先して仕事を手配することを考える…と。
この後、まごころ専門店にまごころを買いにやって来る人が多くなってきた。抵当に入れていたものはまだよかった。銭店長は三割多く払えばすぐにそれを買い戻させてくれたから。しかし、買い上げたものについては、申し訳ないことだが、価格の倍払わなくては戻せない、要るなら払え、要らないならそれまでだ、というのだ。
島民の一部は非常に怒り、まごころ専門店を開いているくせに、まごころは無いのか、と銭店長を問い詰めた。銭店長は言った。私はまごころを売買しているのです。まごころを売買することで利益を得ているのであって、すみませんが、私はまごころのある店長ではないのです。この時、島民たちはやっと自分たちが騙されたことに気づいた。この時から、まごころを持たない島民は三等公民となり、彼らはまごころがなくなると、まるで歩く屍肉のようになってしまうのだということを知った。彼らは後悔したさ。彼らは死ぬほど銭店長を恨み、死ぬほど自分を恨んだ。後悔という薬はなんとも苦いものだ。