『蓮霧』第11号 好評発売中!

中国の微型小説(ショート・ショート)の翻訳集

 

 

『凌鼎年ショートショート選』 好評発売中!

中国の著名なショートショート作家凌鼎年の翻訳集(詳しくはこちらをご覧ください)

書評が『Fuji Sankei Business I 』(2019年1月7日号)に載りました

『凌鼎年ショートショート選――もう一度若くなって』

『凌鼎年ショートショート選――もう一度若くなって』

DTP出版、2017年1月31日刊)

 

 本書は中国の著名なショートショート作家凌鼎年の作品五十三篇を収めた日本初の中国の本格的なショートショート集の翻訳である。日本でショートショートといえば星新一が有名である。中国では一九八〇年代の半ばころからショートショートが盛んに書かれるようになった。その名称は微型小説、小小説、超短篇小説、極短篇、迷你小説とさまざまであるが、現在では微型小説、小小説の二つが有力なジャンル名となっている。中国でのショートショートの特徴を上げると、まず第一は一九八〇年代以降現在まで多少の消長はあったが盛況が三十年にわたって続いていることである。もう一つはショートショートを専門に書く作家が輩出していることで、中国作家協会の会員になっているショートショートの専門作家は百名を優に超える。凌鼎年はその中でも最も旺盛な筆力を誇る有力な作家である。

 一九九〇年代に入って中国では文学雑誌の発行部数が軒並み減っており、中国を代表する『人民文学』の発行部数も一ケタの万台にまで落ちたことが文学への関心の低下をあらわすものとして一時話題となった。それに対してショートショートの専門雑誌『小小説選刊』(河南省鄭州市)と『微型小説選刊』(江西省南昌市)の二誌は月二回発行の半月刊だが、月の発行は五十万から六十万部を維持していて、著しい対照をなしている。この二誌の他にも『小小説月報』(河北省)、『微型小説月報』(天津市)、『微篇小説報』(四川省成都市)など十五種をこえるショートショートの専門誌紙が発行されている。これも盛況を具体的に示す一つの指標である。

 微型小説の盛況は一九九〇年代に東南アジアのシンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、ブルネイなど華語圏にも波及し、盛んにとり組まれるようになった。

 著名作家もすぐれた作品を発表しただけでなく、ショートショートの専門作家が輩出し、優れた作品を発表してきた。中国の作家たちに大きな影響を与えたのが星新一のショートショートであり、作品とともにショートショートの三要素、新鮮なアイディア、完全なプロット、意外な結末も一九八〇年代に中国に紹介され、論議を賑わわせた。川端の「掌の小説」の全訳も出版されている。阿刀田高、結城昌治、筒井康隆、都築道夫、森瑤子、村上春樹など多数の作家のショートショートも翻訳されている。また、欧米だけでなく旧ソ連、東欧、中南米、アジア、アフリカ、大洋州のほとんどすべての国、地域のショートショートが中国語に訳されているのも、この短い形式への関心と熱中を示すものである。作家個人のショートショート集だけでなく、各種のアンソロジーが汗牛充棟と言ってよいほど出版されており、『诺贝尔文学奖获奖作家微型小说精品』(『ノーベル文学賞受賞作家ショートショート名作集』)余致力编百花洲文艺出版社、二〇一二というようなアンソロジーも出版されている。

 これまでに書かれた名作を挙げると汪曾祺「虐猫」(猫虐め)、邵宝健「永遠的門」(開かずの扉)、陳啓佑「永遠的蝴蝶」(永遠の胡蝶)、劉以鬯「打錯了」(掛け間違いです)、劉連群「人到老年」(年をとると)、曹乃謙「攸麦窩里」(攸麦の乾茎の中で)、白小易「客里的爆」(客間での爆発)、孫方友「捉鳖大王」(すっぽん捕りの名人)などがあり、凌鼎年の「再年軽一次」(もう一度若くなって)もその一篇である。

 近年は微型小説よりさらに短い「閃小説」も書かれ、その専門の閃小説学会も作られた。閃小説とは英語のFlash Fictionの翻訳である。閃小説はシンガポール、マレーシア、タイなど東南アジアの華語圏でも書かれている。

 凌鼎年は八十年代の終わりから頭角を現した作家で、一九九〇年にはすでに孫方友、謝志強、沈祖連、張記書、劉国芳、劉連群、滕剛、曹乃謙などとともに将来を嘱望される小小説の書き手の一人となっていた。その後そのすぐれた作品と評論で微型小説を代表する作家、評論家となっていった。

 今回、私たちの『凌鼎年ショートショート選――もう一度若くなって』は凌鼎年の選集『请请请,您请』に収められた一〇三篇の微型小説のうち五十三篇を訳したものである。私を含めて十八人の訳者が翻訳した原稿を、訳者代表の私が諸氏の訳文を原文と照らし合わせて、チェックし、推敲、最終稿を完成させた。大川完三郎元中央大学教授が翻訳に参加して下さったことはありがたいことであった。また、本会の顧問である國學院大學の呉鴻春先生には各訳者が初稿を作成する段階から最終的な推敲の段階まで何度も教えを請い、訳文を完成させたのである。呉先生のご助力なくして翻訳書の完成はあり得なかった。心からの感謝を捧げたい。

 

 原作『请请请,您请』の英訳China Microfiction Collection――Dingnian’s, by Ling Dingnian,traslated by Zhang Baihua,KF Times Group Inc. は本書の先立って二〇一六年十月カナダの出版社から刊行された。この英語版には百二篇の作品が収録されているとのことである。                         (渡邊晴夫)

目 次

まえがき

 もう一度若くなって
 息子をひとり立ちさせよう
 赤い薔薇
 家賃
 忘れ難き四角いりんご
 道具
 サルの悲しみ

 了悟禅師
 裴迦素
 消えた壁画
 血で書いたお経
 町に気功師がやってきた

 茶渋
 菊愛好家
 絵画・人間・値段
 墨の誤り
 目利き
 天下一の切り株
 第五竹

 呪いの椅子
 まごころ専門店
 最も優秀な計画
 不老長寿の薬
 留眼服に残った眼の形
 正直遺伝子を探せ
 翁局長

 秘密
 夫婦そろって里帰り
 今は今、あの時はあの時
 いつまでも忘れられない簫声
 子ども時代をなつかしむ
 罪人
 最後の授業

 誕生祝い
 殺し屋
 西洋のお嫁さん
 硬骨漢と腰抜け
 史仁祖

 選択
 床屋の阿六
 食へのこだわり
 将軍と亭尉

 牛二
 三番目の叔父さん
 天使
 色ごのみ
 おかしな言さん
 盲人夫婦

 闘草
 麻雀老法師
 「之」の字を入れる
 あの竹林のあの木
 ウサギとカメの競走・続編
作者と作品について
あとがき

 

 

 

書評が『Fuji Sankei Business I』(2019年1月7日号)に載りました